2次方程式の解の公式を求める方法を講義する。2次方程式の解を一般的に導く方法として『平方完成』という技法を用いる。
具体的に2次方程式の解を求める話に入る前に、2項の多項式の2乗の展開を計算し、係数の性質を見てみよう。
$ (x+m)^2=x^2+2mx+m^2 $
右辺の $x$(1次)の係数の半分、つまりこの場合は $2m$ を半分にした $m$ を2乗したものが、最後の項の $m^2$ になっているということに注目したい。 これは $x^2+2mx$ という形の式があったとき、$x$ の前の係数の半分の2乗を足してやれば、$ (x+m)^2 $という形に変形できるということを意味している。
具体的な例を見て感覚をつかみたい。
$ x^2+6x $
この式にあと何を足せば、$ (x+m)^2 $ というようなカッコの2乗という形に変形できるだろうか?
の係数は6である。その6の半分を2乗したものが第3項目にあれば、$ (x+m)^2 $ のような形を作れるということであった。 第3項目に欲しい数字は9ということである。
$ x^2+6x+9 $
これは、$ (x+m)^2 $ のように因数分解できる。
$ x^2+6x+9 = (x+3)^2 $
ここでのポイントは、『$x$ の前の係数を半分にしたものの2乗が、第3項目にあれば、$ (x+m)^2 $ という形に変形できる』ということ。 2次方程式の解の公式を導く上で、必要な概念なので頭に叩き込んでほしい。
以上の性質を使って2次方程式の解の公式を導く。2次方程式の一般的な形は、以下のとおり。
$ ax^2 +bx+c=0 $
2次方程式の解を求めるということは、$ ax^2 +bx+c $ が0のとき、$x$ の値は何になるのかということである。 中学1年のとき1次方程式の解を求めたように、2次方程式 $ ax^2 +bx+c=0 $ を満たし、等式を成り立たせる $x$ の値を求めるのである。
左辺を今まで習った計算法則に則って、変形していくことから始める。
$ ax^2+bx+c = a \left( x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x \right) + c $
まず前の2つの項を強引 $a$ にでくくる。$c$ を残すこと、$c$ までくくらないのがポイント。よくわからない人は、右辺を展開してほしい。 展開すれば、ちゃんと左辺になることがわかるだろう。強引に $a$ でくくるために、$x$ の前の係数の $b$ を $a$ で割っているのである。
さあ、ここで注目して欲しいのが、カッコの中身である。$ x^2+ \displaystyle \frac{b}{a}x $ の部分。 この部分を $ (x+m)^2 $ という形・・・つまりカッコの2乗という形にしたいのだがどうしたらよかっただろうか?
『$x$ の前の係数を半分にしたものの2乗が、第3項目にあれば、$ (x+m)^2 $ という形に変形できる』ということであった。
$x$ の前の係数って何? → $ \displaystyle \frac{b}{a} $ のことである。これの半分を2乗したものとは何か? $ \displaystyle \frac{b}{a} $ の半分は、$ \displaystyle \frac{b}{2a} $だから、 これを2乗すると、$ \left( \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 = \displaystyle \frac{b^2}{4a^2} $になる。 こいつが、3番目の項にあれば、$ (x+m)^2 $ という形に変形できる。
$ ax^2+bx+c = a \left( x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x \right) + c \\ = a \left( x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2} - \frac{b^2}{4a^2} \right) + c $
カッコの中に、$ \displaystyle \frac{b^2}{4a^2} $ を足した。でも、ただ足しただけでは、もとの式とは異なるものになってしまうから、 つじつまを合わせるために、同じものを引いてやる必要がある。同じ数を足して、同じ数を引いても、 式全体は変わらないのは理解できるだろう。プラスマイナス0ということだ。
$ ax^2+bx+c = a \left( x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x \right) + c \\ = a \left( x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2} \right) - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + c $
括弧内の4番目の項 $ - \displaystyle \frac{b^2}{4a^2} $ がカッコ内にあっては、$ (x+m)^2 $ という形に変形できないので、こいつだけカッコの外に展開して追い出してやる。 $ - \displaystyle \frac{b^2}{4a^2} $ だけに、カッコの外の係数の $a$ を掛けて、カッコの外に追い出してやる。
ついにカッコ内が $ x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2} $ の形になった。これは $ (x+m)^2 $ の形に因数分解できる! (カッコの2乗の形を作ってやる式変形を『平方完成』という。)
$ ax^2+bx+c = a \left( x^2 + \displaystyle \frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2} \right) - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + c \\ = a \left( x + \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $
ここでのポイントは、一番右側の項の $ - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + c $ を $ - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $ とひとつの分数の形にまとめているということ。 分数にまとめるとき、$ 4ac $ の前の符号を+に間違える人が多いから注意してほしい。 分数の前のマイナスは、分子全体にかかっていることをお忘れなく。 そして分子全体は、見えないカッコで閉じられていることにも注意。
末尾の分数の変形は数学が得意な人間でも「あれ?」と思うところ。 難しいことではないが、あまりやらない変形なので違和感があるかもしれない。
$ - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + c $ → $ - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $の部分だけを取り出して丁寧に式変形を示すと、以下のようになる。
まず分母を $4a$ に合わせ、通分する。
$ - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + c = - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + \frac{4ac}{4a} $
括弧を付けてマイナスで括ってやる。
$ - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + \frac{4ac}{4a} = - \left( \displaystyle \frac{b^2}{4a} - \frac{4ac}{4a} \right) = - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $
話を本筋に戻そう。あともう少しである。今までやってきた式変形の最後を書くと以下のようになった。
$ ax^2+bx+c = a \left( x + \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $
左辺のを計算法則に則って変形していくと、 左辺は $ a \left( x + \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $ と変形できるということである。
ここで右辺とイコールでつなぐ。(右辺は0である。)
$ a \left( x + \displaystyle \frac{b}{a} \right)^2 - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} = 0 $
左辺の $ - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $ を右辺に移項する。 → $ a \left( x + \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 = \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $
そして、両辺を $a$ で割る。$a \neq 0$ なので割ることができる。
$ ax^2+bx+c = 0 $ が2次方程式という断り書きがあるならば、$a \neq 0$ である。 もし $a=0$ ならば、$ ax^2+bx+c = 0 $ がそもそも2次方程式ではなくなってしまう。 $a=0$ ならば、$ bx+c = 0 $ となり、中学1年生で習うただの1次方程式である。
$ \left( x + \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 = \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a^2} $
カッコの2乗を外す。(つまり平方根を求めよということ。)
$ x + \displaystyle \frac{b}{2a} = \pm \sqrt{ \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a^2} } = \pm \displaystyle \frac{ \sqrt{b^2-4ac} }{ \sqrt{4a^2} } = \pm \displaystyle \frac{ \sqrt{b^2-4ac} }{ 2a } $
左辺の $ \displaystyle \frac{b}{2a} $ を右辺に移項する。
$ x = - \displaystyle \frac{b}{2a} \pm \displaystyle \frac{ \sqrt{b^2-4ac} }{ 2a } $
分母が同じなので、これをひとつの分数にまとめる。
$ x = \displaystyle \frac{ -b \pm \sqrt{b^2-4ac} }{2a} $
以上、解の公式を導くことができた。
導き出された解は、$ ax^2+bx+c $が0のとき、この式を満たす $x$ の値ということである。
間違っても以上の式変形を理屈抜きの丸暗記をしてはいけない。意味を理解せずに丸暗記なんてできるわけがない。 もし丸暗記して覚えられたとしても、1ヶ月も復習をしなかったら、丸暗記の記憶は真っ白になるだろう。
丸暗記せずに記憶するためには、何を覚え、何を覚えないのかを悟ることです。
解の公式を導くにあたり、記憶しておくポイントは以下の3つだけです。
最初に、前2つの項を強引に $a$ でくくるということ。全部を $a$ でくくらない!
$x$ の係数の $ \displaystyle \frac{b}{a} $ の半分である $ \displaystyle \frac{b}{2a} $ を2乗し、 $ \left( \displaystyle \frac{b}{2a} \right)^2 = \displaystyle \frac{b^2}{4a^2} $ とし、これを足し引きしてやることで、 $ (x+m)^2 $ という形に変形してやるということ。
$ - \displaystyle \frac{b^2}{4a} + c $ を $ - \displaystyle \frac{b^2-4ac}{4a} $ というように、 ひとつの分数にまとめるところが、ひっかかりやすいので、何度も丁寧に計算を紙に書いて覚え込ませること。
数学は丸暗記するものではなく、要所要所の理屈を覚えておくだけで、あとは計算法則に則って計算を進めることができるもの。 式変形のひとつひとつの計算法則に納得していけば、最後まで導くことができるはず。
この2次方程式の解の公式は、完全に白紙の段階から導くことができるようにしてほしい。 入試や定期試験の本番で、この2次方程式の解の公式を導けという問題が出題される確率は低いであろうが、 この解の公式を導く過程には、たくさんの大切な計算法則が含まれており、 この一連の復習をするだけでも、一度にたくさんの計算法則を復習することができるのである。
問題集のパターンの決まった計算問題を解くのもよいが、慣れて「なんとなく」計算ができてしまっている場合もある。 そういった具体的な数値を扱った問題演習以外にも、このように一般的な文字を使った式を変形していき、 解の公式を導くトレーニングをすることは、数学の理解に非常に効果が高いものといえる。
また、この平方完成による解の公式は、高校1年生の最初に習う2次関数に関して重要な意味を持つのである。